Furusawa Keisuke's blog

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書評『対話でわかる 痛快明快 経済学史』

経済学者、松尾匡(まつお・ただす)さんには、初学者向けの分かりやすい啓蒙的著作が多い。

昨日ご紹介した『ケインズの逆襲 ハイエクの慧眼』もそうだったが、本日取り上げる『対話でわかる 痛快明快 経済学史』(日経BP社)もまた、すぐれて啓蒙的な著作のひとつだ。

いやこれこそ、現下の日本における、経済学の一番の入門書ではなかろうか。それくらい、僕はこの本のことが気に入っているのだ(w

 

「対話でわかる」とのタイトルの通り、本著は女子大生・江古野ミク(えこの・みく)――当然、エコノミクス(経済学)とかけているのだろうが、個人的にはやはり某ボーカロイドを想起してしまう――をはじめとする登場人物たちの対話形式で経済学史を振り返るという、なんとも斬新な構成の本である。

対話によって語られるのは、アダム・スミスリカードマルクスなど、巨人と称される経済学の先駆者たち。本著は図表も充実しており、重要な箇所は太字で表記される。とってもサービス満点の著作なのだ。

説明もとても分かりやすい。たとえば経済学における「限界」(marginal)とは、とどのつまり、数学における微分のことなのだ、という説明は、かつて理系コースに在籍していた僕には、とても腑に落ちるものだった。

経済学だけでなく、個々の経済学者たちの人となりが分かるのも、また本著の魅力のひとつと言えよう。

 

しかしながら、本著の一番の魅力――それは、全編にわたって「お笑い」に満ちているということだろう。

なにせこの本、ミクちゃんの近所に住んでいる謎の爺さん――その驚きの正体は終章にて明かされる――が降霊術(!)をやり、スミスやリカードなど経済学者の霊を自らの身体に憑依させることで彼らに経済学を語らせるという、かなりトンデモな内容に仕上がっているのだ(;^ω^)

まるで某新興宗教教祖の霊言本のような作りなのである(w

経済学者の霊たちのセリフ回しは、どれもこれも、クスリと笑わせるものばかり。おかげで終始笑いながら本著を読了することができた。

それでいて、内容は意外にも高度である。スミス、リカードなど古典派の経済学者から始まり、マルクス新古典派をつくった3人の経済学者、ケインズ、そして新古典派を復活させたフリードマンや、それ以降の「新しい古典派」、ニューケインジアンなどの現代の経済学者たちが取り上げられ、その思想がかなり細かいところまで解説されるのである。

とくに終盤では、読んでいて結構頭が痛くなるかもしれない。そういう場合は、無理して一度に読破しようとはせず、ゆっくりと内容を咀嚼しながら読むか、あるいは何回も繰り返し読むと良いだろう。

 

このように本著は優れた啓蒙書だが、とりわけ目を見開かされたのが、以下に引用する一節である。

ミクちゃんの経済学の先生である根上のぞみ先生――バブル期に青春を過ごしたが、高収入男をつかまえられないまま独身になってしまった女性教員であるらしい――の言葉である。いささか長くなってしまい恐縮だが、極めて重要な箇所だと思われるので、以下に引用させていただく。

≪資本主義がけしからんとか、弱肉強食の現実はけしからんとか、そんなことなら誰でも言えることよ。でもそんなこと言うだけで問題を解決してみんなの境遇を改善できるかって言えば疑問だわ。マルクスを学んで一番わかることはね、彼は体制をひっくり返そうという立場にいたにもかかわらず、当時の押しも押されもせぬ支配体制側の主流派経済学のリカード経済学を一生懸命勉強して、それをすっかり自分のものにして議論しているということよ。そして、色々な社会問題を究明するのに、悪者探しをして不正な企みを暴こうなどという基本姿勢はとらなかった。あくまで原則は『経済学的発想』に立って、そんな問題がもたらされる、人為を離れた客観的仕組みを分析しようとした。

(中略)自分に先行する他人の議論を取り入れることにどん欲だった。しかも、そこに互いに対立する潮流があったとき、対立に目を奪われて片方だけについてもう片方を切り捨てるのではなく、中途半端な折衷をするのでもなく、両方ともを徹底的に検討して、ひとつの体系の中に総合しようとした。こんなふうにしてそのときまでの人類の英知を総合したからこそ、巨大な影響力のある学説を作り出して、この世の中が少しでもましな方向に動くために貢献したんだと思うわ。……いま、資本主義の現状を批判している人達に、往々にして一番欠けているのは、こういう姿勢だと思うのよ。だからこそ、まさにこの点で、いまマルクスを学ぶ意義があるのだと思っています≫(89頁)

今の左翼活動家連中には、根上先生のこの言葉を聞かせてやりたいものだ。

 

僕がこれまでに読んだ経済学の入門書のなかでは、本著が一番のお気に入り(w

これからは、経済学について知りたいという初学者の方にはまず、本著を薦めることにしよう。

 

対話でわかる 痛快明解 経済学史

対話でわかる 痛快明解 経済学史