Furusawa Keisuke's blog

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書評『日本の保守思想』

本日取り上げるのは、先日の『保守論壇亡国論』のなかで山崎行太郎さんにケチョンケチョンに批判されていた(w)、評論家・西部邁さん(1939-2018)の著作『日本の保守思想』角川春樹事務所)である。

 

本著はタイトルの通り、近代日本の保守思想家を何人かピックアップするというもの。さぁ、取り上げられる思想家は、誰だろう。

保守思想家というくらいだから、やっぱり小林秀雄福田恆存江藤淳などが出るのかな、と思った。

たしかに小林、福田は取り上げられているが、江藤の名は本著にはない。

……あぁそうか、本著の(文庫版でなく)初版が世に出たのは、1991年。その当時、江藤さんはまだご存命だった。存命の思想家は、あえて外したのだろう。

そう思ったのだが、アレ? よく見ると吉本隆明の名前もあるぞ。当時、吉本さんは当然ご存命だったはずなのに……。う~む、よくわからない選考基準であるw(;^ω^)

そう、小林、福田は当然だとしても、本著で登場するのはなんとも意外な顔ぶれなのだ。

冒頭からして、福沢諭吉夏目漱石とくるのだから、「……え?」と困惑してしまうw

なかには北一輝のように、保守というよりかは右翼と言った方が適切なのでは、と思わせる人選もある。

このほか、政治家の伊藤博文吉田茂や、風土学者の和辻哲郎、作家の坂口安吾など、実に多種多彩な顔触れである。上述のとおり、吉本隆明まで入っているのがなんとも興味深い。普通、安保闘争に影響を与えた吉本は、したがって左翼界の大御所、と見なされることが多いからだ。もちろん、西部さんは吉本を全肯定するのではない。たとえば、大衆を重んじた吉本に対し、「大衆にそこまで信頼置くのって、ぶっちゃけどうなのよ」(意訳)とグチっていたりするw

 

僕は以前、西部さんを、福田、江藤ら「文学の人」とは異なる、「科学の人」に分類した。

本著を読んで、ますますその確信を深めた。

西部さんは、たとえば和辻哲郎が分からないと言う。

≪仮に物質や風土のような実体世界が決定的なのだとしても、その世界の構造が人間の精神の構造(つまり理性と感性の双方が結節する場としての言語の構造)といかに映し合うか、という点がきちんと説明されなければ、そうした決定論は説得的なものではありえないのである。受容性とか忍従性とかいった和辻の概念――仮にそれらが概念といえるとして――は哲学としては未熟であるし、文学としては凡庸である。≫(114頁)

僕も、西部さんに同感である。僕は以前、和辻の影響を受けた評論家・松本健一の「泥の文明」論に、内心呆れてしまった経験がある。僕には、西部さんの主張のほうが説得力があると感じられる。

西部さんは、北一輝については、このように述べている。

≪変な人間一輝を私が徹底的に嫌いになれない理由は、その抽象癖が私のものでもあるからである。たとえば、日本の国家を論じるに当たって、農本主義者たちにみられるような情念のほとばしりは一輝にあってみじんもみられない。田圃の香りも森林の匂いも神社の気配も一輝からは感じられないのである。(中略)一輝にとって日本は情念や情緒の対象ではなかったのだ。佐渡以外の日本にあって、いやおそらくは佐渡を含めこの日本のすべての場所において、上海や武昌にあってはいうにおよばずとして、一輝は異邦人でありつづけたのである。≫(73頁)

ここは、読んでいて「なるほどなぁ」と思わず唸った箇所だ。確かに、北の思想はパトリオティズム(郷土愛)というよりかはナショナリズム国家主義といったほうがいいように思う。

なるほど。これが、僕が北や西部さんに惹かれる理由なのかもしれない。実のところ僕にも、西部さんの言うような「異邦人」的な感受性はあるのだ。

というか、僕の世代はみんなそうなのかもしれない。僕たち1980年代生まれの世代は、田圃の香りも森林の匂いも神社の気配とも無縁である。コンクリートの建物、アスファルトで舗装された道路、クルマ社会、徒歩10分圏内にあるコンビニが当たり前という環境のもとで、僕らは育ったのだ。

もちろん、我々世代とて故郷への愛着はある。僕がアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』にハマったのも、僕の出身地・静岡県沼津市が舞台だからだ。

しかしそうした“郷土愛”は、かつての人々、たとえば和辻が抱いていたような民俗学的な感性とは、また別モノなのではないか――そういう考えが、僕には強くあるのだ。

 

本著の最後にて登場するのが、文芸評論家・福田恆存である。

先日の『保守論壇亡国論』にて山崎さんは、西部さんは論壇デビュー当初、保守論壇の大御所であった福田さんに取り入った、と批判していた。

保守論壇亡国論』を読んだ後で、本著の福田恆存の章を読むと、いろいろと、興味深いものがある。

 

日本の保守思想 (ハルキ文庫 に 1-6)

日本の保守思想 (ハルキ文庫 に 1-6)