Furusawa Keisuke's blog

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書評『民主政の不満』

本ブログでは最近、政治哲学者、マイケル・サンデル教授の『これからの「正義」の話をしよう』『ハーバード白熱教室講義録』を取り上げた。

これらは、ハーバード大でのサンデル教授の講義を活字化したものだが、同講義は学生たちに議論させることを主な目的としていたため、サンデル教授が自らの政治的見解を明らかにすることは、意外と少なかった。

同講義では、功利主義、カント、アリストテレスと経て、最後にコミュニタリアニズム共同体主義の話に至る。ここで学生たち――と「ハーバード白熱教室」の視聴者――は「ああ、サンデル教授が個人的に支持している思想は、コレなんだな」とおおまかに察しがつくのである。

それでは、サンデル教授の考えをより詳しく知るためには、いったいどの本を読めばよいのだろう?

 

そんなわけで、本日ご紹介する本は、マイケル・サンデル著『民主政の不満 公共哲学を求めるアメリカ』勁草書房である。

一般の読者を対象としていた『これからの「正義」~』や『ハーバード~』とは異なり、本著は研究者向けの、れっきとした学術書。当然、サンデル教授はここでは暴走トロッコの話も「くまのプーさん」の話もしてくれない(w)。我々は本著にてガチのサンデル教授を見られる、というわけだ。

学術書なので、一般の読者には読みづらいかもしれない。そういうときは、上下巻それぞれの巻末にある、小林正弥さんの解説を読むとよいだろう。小林さんは『ハーバード白熱教室』でときおり解説役として登場した、あの先生である。

 

本著上巻は、まずリベラリズムへの批判から始まる。次に語られるのは、アメリカの憲法の歴史だ。上巻がもっぱら憲政という抽象的な話なのに対し、続く下巻では具体的な経済(政策)の話なども語られるようになる。その下巻巻末に「公共哲学を求めて」と題された終章があり、ここでサンデル教授のコミュニタリアニズムの思想が本格的に語られるのである。

 

上下巻にわたる本著の議論を貫いている一本の線――それが、共和主義という政治思想である。

本著を読んでいると、サンデル教授の思想は「コミュニタリアニズム的共和主義」とでもいうべきものだということが分かってくる。コミュニタリアニズムと共和主義、これらが、まるで楕円のふたつの焦点のようになって、サンデル教授の思想を支えているのである。

コミュニタリアニズムとは、日本語で「共同体主義」と訳されることからも分かるとおり、共同体を重視する思想である。それでは共和主義とは、いったいどのような思想なのだろう?

政治学者に怒られるのを承知であえて大雑把に解説してしまえば(w)、「もっと政治に関心を持ちましょうね」と絶えず人々に働きかけるのが、共和主義なのだ。

リベラリズムは、そうではない。リベラリズムは、政治に関心を持たない自由もまた尊重する。「無理して選挙に行かなくてもいいですよ」というわけだ(w

共和主義は、それとは異なる。「みなさん、政治に関心を持ちましょう。選挙に行きましょう」と積極的に促すのだ。共和主義では、市民ひとりひとりが政治意識を持つことが重視される。そうした意識を、共和主義は美徳とみなす。

このように美徳を重視するという点で、共和主義はコミュニタリアニズムと共通する。コミュニタリアニズムもまた、(政治意識だけにとどまらない)人々の全人格的な美徳を重視するからだ。

サンデル教授は、これら共和主義とコミュニタリアニズムとを結びつけ、「コミュニタリアニズム的共和主義」という新境地を開拓したのである。

 

本著を(ヒイヒイ言いながらなんとかw)読み終えて、僕は共和主義という政治思想にとても興味を持ち、共感を覚えるまでになった。

とはいえ、この日本で共和主義を語るには、ひとつ、大きな障壁がある。

天皇制だ。

君主国である日本では、共和制ないし共和主義という言葉は天皇制廃止論と同義であるため、なかなか表立って語ることができないのである。

だが、そうだろうか?

そもそもrepublicとは、ラテン語の「みんなのもの」(res publica)すなわち「公共物」に由来し、国家が君主ないし貴族といった一部の特権階級によっては支配されていない状態のことを表していたという。

しかしながら日本の天皇は、民衆を抑圧する存在ではなく、むしろ民衆とともに生き、いざというときには虐げられた民衆の側に立ってくれる存在として、これまでイメージされてきた。現実に悪政が行われている場合には、それは天皇のせいではなく、君側の奸(くんそくのかん;王様をそそのかす悪い家来)のせいだと考えられた。

このような特異な伝統を有する日本であれば、「天皇制と両立する共和主義」を語ることは、可能ではないのか?

――それが今、僕の頭のなかを占めているテーマだ。

 

民主政の不満―公共哲学を求めるアメリカ〈上〉手続き的共和国の憲法

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民主政の不満 下―公共哲学を求めるアメリカ

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この本もオススメ! BOOK GUIDE

・『集中講義! アメリ現代思想 リベラリズムの冒険』(NHK出版)

本ブログではおなじみ、哲学者の仲正昌樹さんによる、アメリ現代思想の解説書。リベラリズムリバタリアニズム、そしてコミュニタリアニズム三者関係が、よく整理されています。

 

集中講義! アメリカ現代思想 リベラリズムの冒険 (NHKブックス)

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