Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

最近見た映画の感想(第250回)

・『ニシノユキヒコの恋と冒険』

竹野内豊演じる主人公・ニシノユキヒコ。女にモテまくったという羨ましすぎる男だが、本編開始後5分にしてあっさり交通事故で死亡してしまう(w

で、葬儀にて生前の彼を愛した女たちが集い、彼について回顧する、という筋書きの映画である。ニシノ自身も幽霊(!)となって、そんな女たちを見守る。

彼はモテたが、決して肉食系というわけではない。むしろその反対で、明らかに草食系である。どちらかというと、男性というよりかはネコ(!)に近い雰囲気をまとっている。まるでペットのようなその存在感ゆえに、彼は女たちから愛された(愛玩された?)というわけだ。

彼は、やさしげな空気で女たちを肯定し、包摂する。彼は、特定の女と交際することはなく、誰の男にもならなかった。それゆえに彼は「公共財」となり、女たちは安心して彼を愛おしむことができたのである。

……これを「天皇制のメタファーだ」と指摘したのは、作家の佐藤優さんであった。彼の慧眼に脱帽せざるをえない。

 

ニシノユキヒコの恋と冒険

ニシノユキヒコの恋と冒険

 

 

・『天地創造

昔は、神話を題材とした大作映画が、どこの国でもつくられていたものだ。

本ブログでも以前、日本の創世神話を描いた映画『日本誕生』を取り上げたことがあるが、今回ご紹介するのは、キリスト教国・アメリカで制作された『天地創造(原題 "The Bible")である。

旧約聖書『創世記』における天地創造とアダム誕生から始まり、カインとアベルノアの箱舟バベルの塔、そしてアブラハムの物語へと至る。上映時間約3時間という超大作だ。途中、ノアの箱舟の場面が終わったところでインターミッション(途中休憩)に入る。

このノアの箱舟のシークエンスが本作一番の見どころといえよう。なにせCGなどなかった時代。実際に箱舟のセットのなかに動物たちを入れて撮影しているのだ。動物たちは、犬猫などカワイイものだけではない。象、ライオン、カバなど、巨大で獰猛な動物たちも数多くいるのだ――意外と知られていないが、カバは獰猛な動物である。いったい、撮影現場はどれほど大変だったことだろう。苦労がしのばれる(;^ω^)

本作の後半は、アブラハムの物語。アブラハムは、息子イサクを生贄にささげよ、と神に命じられ、それを実行しようとする。最終的に、アブラハムが篤い信仰心の持ち主であることが再確認され、物語はめでたくハッピーエンドと相成る。が、本作を見ると、そのアブラハムとて、息子を生贄にささげるとの決意に至るまでには当然葛藤があったことが読み取れるのである。

先程の箱舟と比べるといくぶん地味ではあるが、この「イサクの犠牲」の場面こそ、本作のもうひとつの見せ場にほかならない。

 

 

・『アレクサンドリア

高校の世界史の授業では、ローマ帝国は313年にキリスト教を公認しました、392年には国教にしました、と実に淡々と教えられるが、実際にはキリスト教の広まりには、当然ながらかなりの社会的混乱がつきまとった。

本作は、ローマ帝国時代の末期、キリスト教が広まっていく過程にある古代エジプトの大都市・アレクサンドリアを舞台とした、歴史映画である。監督は、『海を飛ぶ夢』などで知られる、スペインのアレハンドロ・アメナーバル

アレクサンドリアには巨大な図書館があり、古来より学術都市として地中海世界にその名を知られていた。この街の教育機関(今日の大学に相当)にて教鞭をふるっているのが、女性哲学者のヒュパティアである。

彼女の専門は天文学。当時支配的だったプトレマイオスの天動説に疑問を抱いた彼女は、地動説について検討をはじめる。しかし、地球が動いているというのなら、どうして我々は取り残されずに済んでいるのか。彼女は、移動する船の上で物体を落下させるという実験を行い、慣性の法則を発見する。次第に地動説への確信を深めていく彼女であったが、それでもまだ、惑星の動きには不可解な点が残されていた。

折悪く、このころアレクサンドリアでもキリスト教が急速に広まっていく。この時代のキリスト教は、まさに反知性主義そのもの。異教徒の本など燃やしてしまえ、と躊躇なく図書館を破壊していく。やがてヒュパティアのもとにも、生命の危機が迫る。

こうした「キリスト教反知性主義」以外にも、本作にはテーマがとても多い。女性の人権の問題、あるいは女性のライフスタイルの問題もそう。自分はこれまで「女の幸せ」を犠牲にしてしまったのではないか、との思いにとらわれるヒュパティアに共感する理系女子たちはきっと多いはずだ(w)。このほか、古代都市・アレクサンドリアをCGでリアルに再現できているという点も、僕は高く評価したい。

……少しだけネタバレしてしまうと、後半、ヒュパティアは、地球の軌道は本当に円なのか、実は〇〇じゃないのか、と考察を進めていく。これは極めて重大なアイデアで、僕は個人的には、天動説から地動説への転換よりも、惑星の軌道が円ではなく〇〇だと分かったことのほうが、はるかに偉大な前進だったと思っている。

史実のヒュパティアが天文学についてどのような考えを持っていたかは、本当のところはよく分からない。だがもし本当に彼女が惑星の軌道が〇〇だと気づいたのであれば、彼女はまごうことなき天才であった。

 

アレクサンドリア (吹替版)

アレクサンドリア (吹替版)

 

 

・『エレファント・マン

難病により身体が変形し、人間離れした奇怪な姿になってしまった男性、ジョゼフ・メリック(1862‐1890)――通称「エレファント・マン」。

ヴィクトリア朝時代のイギリスにて実在した人物である。

本作は、そんな彼を主人公に描いた映画である。監督は、デヴィッド・リンチ。カルト映画の巨匠として知られる。本作は、1980年の映画であるが、あえてモノクロフィルムで撮影されており、そのせいか、単なるヒューマンドラマ映画とは異なる、なんとも形容しがたい不気味さ、趣味の悪さを湛えている――なお、これは僕の持論であるが、“あえて”モノクロで撮られた映画は、例外なく名画である

とはいえリンチ監督、後述するようにちゃんとヒューマンドラマ的な要素も本作のなかに盛り込んでいる。彼は後に『ストレイト・ストーリー』というフツーに人情モノの映画も撮った。意外にも、彼は「人情の人」だったのではないか、と僕は思っている。

では本編の話へ。アンソニー・ホプキンス演じる医師の男性は、とある見世物小屋にて「エレファント・マン」を発見、保護してさっそく診察を開始する。当初は知能障害かと思われた彼だったが、単に顔の変形のせいで発話ができなかっただけで、訓練すればなんとか会話できることが判明する。そうしてコミュニケーションを重ねるうちに、彼は化け物どころか、とても心の清らかな青年であることが明らかになるのである。

見た目こそ奇怪だけれども心は清らか、という点で、以前取り上げた『マスク』と似る。どちらも初見ではビックリしてしまうが、しばらく見ていると慣れてくる。人間の慣れというのは不思議なもので、モンスターのような顔であっても、何十分と見つづけていると慣れてきて、むしろ愛嬌すら感じられるようになるのだから、大したものだ。

エレファント・マン」は、これまで心無い人々によって虐待されつづけてきた。しかし医師をはじめ心根の優しい人々と触れ合うことによって、彼は人間世界に希望を見出すのである。本物のモンスターは、彼ではなく、彼を虐待してきた健常者どもではなかったか。

 

エレファント・マン [DVD]

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・『スキャナー・ダークリー

フィリップ・K・ディックの原作小説を、キアヌ・リーヴス主演で映像化。といっても、本作は実写ではなく、アニメ映画である。

なんと本作、実写映像をトレースしてアニメーション化するという、「ロトスコープ」なる特異な手法を採用しているのだ。

その威力が発揮されるのが、主人公たちが正体を隠すために着る「スクランブル・スーツ」である。これはある種の光学迷彩のようなもので、人種、性別、年齢の異なる様々な人間の外見へと目まぐるしく変化していくという特殊スーツである。これは実写ではなかなか表現するのは難しかろう(w

さて、キアヌ演じる麻薬捜査官の主人公は、自らも捜査の一環で麻薬を常用していくことで、次第に幻覚に苛まれるようになる。夢と現実の境界線があやふやになっていく。この点、わが国の押井守監督の作風と似ている。そういえばキアヌの代表作『マトリックス』シリーズも、押井監督の『攻殻機動隊』から強い影響を受けた映画だったっけ。

本作からはまた、監視社会への批判的なまなざしも見て取ることができる。いかにもディック原作らしい、深みを感じさせるSF映画だ。

 

スキャナー・ダークリー 特別版 [DVD]

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