Furusawa Keisuke's blog

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書評『夜は短し歩けよ乙女』

本ブログでは以前、アニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』を取り上げた。とても幻想的で、それでいてユーモラスでもある独特の世界観が魅力だ。皆さんもぜひご覧になってほしい。

さあ、本日ご紹介するのは、その原作小説『夜は短し歩けよ乙女角川書店である。

著者は、小説家の森見登美彦さん。くだらないことをわざと小難しく表現する、擬古的な文体が特徴である。京大出身(!)であり、今日も京都在住であることからか、京都を舞台にした作品がとても多い。

彼の作品は映像化に恵まれている。これまでに、『四畳半神話大系』『有頂天家族』、そして本作がアニメ化され、いずれも高い評価を得ている。今現在も、劇場アニメ『ペンギン・ハイウェイ』が公開されている最中だ。

このうち『有頂天家族』は、10年代の深夜アニメのなかで、個人的に最も好きな作品である。

 

さて、本作『夜よ短し歩けよ乙女』は四章構成。冒頭の第一章では、夜の京都の街を舞台に繰り広げられる、「詭弁踊り」などのアヤシ~イ飲み会の模様が描かれる。続く第二章では、主人公のイケてない男子京大生がひょんなことから、古本市からそのまま異世界(!)へと迷い込んでしまう。第三章では、京大の大学祭の様子が、カーニバル的な熱狂とともに描写される。そして最後の第四章にて、上述のイケてない主人公と、ちょっと天然の入ったヒロインとが紆余曲折を経てくっついて、めでたしめでたし♪ と相成るのである。

ずいぶん奇妙なあらすじだな、と森見作品を読んだことのない方はもしかしたら思われたかもしれない。

そう、京都の街を天狗やら化け狸やらが平然と闊歩するような、摩訶不思議な世界観こそ、森見作品の一番の魅力なのである。

 

本作の文体は、主人公とヒロイン、それぞれのモノローグが交互に語られる、というやや変わったかたちをとっている。

ふたりのキャラクターは、たとえるならば、久米田康治さん(※)の『さよなら絶望先生』における主人公・絶望先生とヒロイン・可符香(かふか)ちゃんの関係とよく似ている。

主人公のほうは、地頭は良いのだけれど、いかにも自意識を拗らせちゃった感じの残念なインテリ青年であり、ヒロインのほうは、ちょっと天然が入った感じの朗らかな少女である。彼女は、孤独な主人公を優しく包摂してくれるのだ。

こうしたヒロイン像は、しかしながら、どこか「男が夢見がちな、男にとって都合のいい、空想上の女性」という感じがする。本作に限らず、森見さん、あるいは久米田さんのジェンダー観はやや保守的に過ぎるかな、という印象を僕はどうしても抱いてしまうのである――だからといって、彼らの作品がダメだというのではもちろんない。僕はご両人のファンなのである(w

 

※森見さんと久米田さんは、大正教養主義への憧れ、やや保守的なジェンダー観、「和風」を強く感じさせる世界観、などの点がとてもよく似ている。アニメ版『有頂天家族』にて久米田さんがキャラクター原案というかたちで森見作品と結びついたのは、したがって必然と言えるのかもしれない。

 

上述のとおり、著者の森見さん自身、京大の出身である。彼の書く小説の主人公はたいてい、イケてない男子京大生という場合が多い。

そう、この「イケてない」というところが最大のポイントなのだ。彼の作品に、イケてる京大生など、ぜぇーったいに出てこない(w

よく言われる話だが、京大というのは、1人の天才と99人の廃人を生むところである。

そしてその1人の天才は、京大卒業後、中央(東京)へと行ってしまう。そうして残りの“残念な99人”が京都に留まるのである。

京都の街は、そんな“残念な99人”たちが築いてきたのだ。森見さんは、つねに彼ら“残念な99人”の側に寄り添い、彼らを題材に小説を書きつづけてきた。

彼の描く京都の街は、したがって、どこまでも“残念な99人”に優しい。ちょうど本作のヒロインが主人公を包摂してくれるように、可符香ちゃんが絶望先生を包摂してくれるように、京都はイケてない男子京大生たちをやさしく包摂してくれるのである。

そんな京都の街に、読者は、強い憧れを抱くに違いない。

 

 

最後に、本著を読んでいる間、とても楽しかった、ということをつけくわえておく。

読書というのは確かに知的好奇心が満たされるのだが、意外と体力がいる行為でもある。難解な本だと、読んでいるだけで骨が折れそうだ。

その点、本著は、終始ワクワクしながら読み進めることができた。こんなにも楽しかった読書体験は、『もし京都が東京だったらマップ』以来のことだろうか。

うん、やっぱり僕は、森見ワールドが大好きだ。

 

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

 

 

この本もオススメ! BOOK GUIDE

・『四畳半神話大系角川書店

こちらも森見登美彦さんによる小説。やはり同様に、イケてない男子京大生のイタイ青春を描いています。ノイタミナ枠にてアニメ化もされました(2010年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞受賞)

森見さんは、意外にも理系農学部出身。本作では理系ならではの独特な表現も散見され、他の文系の書き手たちとの違いが際立っています。

『夜は短し~』で登場したキャラクターたちも本著にて多数登場するので、楽しいですよ♪

 

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)