Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

最近見た映画の感想(第252回)

・『三度目の殺人』

福山雅治演じる主人公の弁護士が、ある凶悪事件の弁護を引き受ける。役所広司演じる被告人には強盗殺人の容疑がかかっており、普通に考えれば死刑は免れ得ない。主人公はなんとか減刑すべく、事件現場に足を延ばしたり被告人と何度も面会を重ねたりする。

ところが被告人は不思議なことに、面会のたびに言うことがコロコロ変わる。やがて、彼はそもそも本当に犯人なのか、との疑問が浮上する……。

本作は、もちろんミステリーとしても十二分に楽しめるが、やはり一番の見どころは、役所広司の怪演である。

怪演といえば、黒沢清監督『クリーピー 偽りの隣人』での香川照之の物凄い演技を思い出すが(w)、本作での役所も、演技の方向性が異なるとはいえ、負けてはいない。

常識人なんだか、狂人なんだか、善人なんだか悪人なんだか、最後までよく分からない。実にとらえどころのない、奇妙としか言いようのない人物なのだ。そんな難しすぎる役どころを、役所は完璧に演じきった。まったく大した役者だ。彼の演技力は今の日本映画界においてトップクラスと言って間違いあるまい。

本作はまた、「生きること」そのものへの根源的な疑問を観客に突きつける。人はなぜ生まれたのか。本当にすべての人間に生きる価値はあるのか。

本作にはドストエフスキーカラマーゾフの兄弟』を彷彿とさせる展開もあるほか、現代日本の司法界に対する批判的眼差しも見られ、そのテーマは意外にも多岐にわたっている。

おおよそカタルシス(見てスッキリ!)とは対極にある映画である。観客は本作鑑賞後、大いに考えさせられるに違いない。

 

三度目の殺人

三度目の殺人

 

 

・『東京湾炎上』

中東から日本へと戻ってきた石油タンカー。ところがこの船が東京湾近海にてアフリカ系の海賊集団によってシージャックされてしまって、さぁ大変! という内容のパニック映画である。1975年公開。

タンカーの船員である主人公は「藤岡隊長」の愛称でおなじみ藤岡弘、、タンカーの船長は丹波哲郎、というなんとも豪華なキャスティングである。

とはいえ所詮は娯楽映画。ソマリア沖じゃあるまいし、なんで日本の海でアフリカ系の海賊が出てくるんだよwww、とツッコミどころ満載で笑えてしまう(w

海賊たちの正体は、先進国による途上国の資源収奪に憤るテロリスト集団であった。彼らは日本政府に、石油備蓄基地の爆破を要求する。日本政府が要求をのまなければタンカーごと自爆するという脅しつきだ。もちろんこの要求をそのままのむわけにはいかない。そこで日本政府がとった“ある秘策”とは……

これがまた、いかにも昭和的なシロモノで笑ってしまった(w)。その秘策がテロリスト側に見破られる過程も、なんともお間抜けでこれまた笑ってしまう(w

ラスト、我らが藤岡隊長がタンカーに仕掛けられた爆弾を回収しようとするも手こずる場面は、もはや定番中の定番演出。単純に笑って楽しめる、良い娯楽映画でした(w

 

東京湾炎上 [東宝DVD名作セレクション]

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・『FAKE』

2014年、ゴーストライター騒動で日本中を大いに騒がせた、あの佐村河内守の“その後”を描いたドキュメンタリー映画である。監督は『A』『A2』などでおなじみ森達也

森監督は、騒動の起こった年の暮れから佐村河内への密着取材を開始する。

序盤では、佐村河内サイドの言い分が比較的細かく伝えられる。観客は「……あれ? 佐村河内って、実はいい人なんじゃ……?」と思いはじめるかもしれない。

ところが中盤の、海外メディアからの取材の場面から、雲行きが怪しくなってくる。いかにも欧米人らしく直球の質問をどんどんぶつけてくる海外メディアに対し、明らかにタジタジの佐村河内。「あぁ、やっぱり……」と思いきや、ここで佐村河内は森監督に対し、これから“あること”をすると宣言する。

かくして本作終盤は、その“あること”に取り組む佐村河内を描いている。「あれ? 佐村河内って、やっぱり〇〇ができるんじゃん!」と観客は再度驚くことだろう。ところが最後の最後になって、森監督は佐村河内に対し、恐ろしく冷酷な“ある質問”をぶつけるのである。答えに窮する佐村河内の表情を捉えつつ、本作は静かに幕を下ろす。

森監督という人は、「世間から叩かれている人間をあえて持ち上げる、ひねくれ者のサヨク監督」というふうに誤解されがちだが、いやいや、そんな分かりやすい人物ではない。もっとずっと、得体の知れない人である。

たとえば佐村河内には「光に弱い」という“設定”があり――皆さん覚えていますか?w――それゆえ常にサングラスをかけ、部屋の照明も落としているのだが、本作を見ると、彼は日中のベランダにて普通にタバコを吸っているし(w)、京都の障害者支援の男性に会いにいく際にも彼はグラサンをつけず普通のメガネ姿で歩いている。そんな彼の姿を、森監督はカットすることもなく、ごく普通に本編に盛りこんでいる。

森監督が恐ろしいのは、「佐村河内の側にすり寄っているように見えて、実は冷たく突き放しているのかもしれない」と観客に思わせるところである。この「かもしれない」というところがポイントなのだ。「実は突き放している」と断言できないところが、なんとももどかしい。その“もどかしさ”こそが、森監督作品の一番の特徴なのである。

森達也という人は、実に得体の知れない、不気味な人物である。そしていうまでもなく、物書きや映画監督といった類の連中にとって、「得体の知れない」「不気味」という言葉は、賛辞にほかならないのだ。

 

FAKE

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・『ブラックパンサー

アメリカには、黒人映画と呼ばれる映画のジャンルがある。監督以下、キャスト、スタッフのほぼ全員が黒人という、「黒人の、黒人による、黒人のための映画」のことだ。

本作もまた、黒人映画のひとつに分類されよう。だが従来のそれと異なるのは、本作が桁外れの記録的大ヒットを記録したということ。間違いなく本作は、アメリカ映画の歴史に名を残したと言ってよいだろう。

アフリカ大陸の中央部、「ワカンダ王国」という架空の王国が舞台である。そこでは特殊な鉱物・ヴィブラニウムが産出され、そのおかげで高度な科学文明が発達するに至った。どれくらい発達しているかというと、首都に高層ビルが林立し、その間をリニアモーターカーが疾走する、というレベルであるw(;^_^A

ワカンダ王国は、しかしながらその資源と技術ゆえに他国に狙われることを恐れ、極度の鎖国体制を敷いている。資源と技術を徹底的に隠し、国際社会に対しては貧乏な農業国であるかのように偽装しているほどである。

そんなワカンダ王国にて老国王が殺害され、その息子である主人公ティ・チャラが新国王へと即位する。だがその王位を狙う者があった。それが本作のヴィラン(悪役)であるキルモンガーである。実は彼もまた王家の血を引く者であり、ティ・チャラから王位を簒奪しようと目論むのだ。

キルモンガーは、ワカンダ王国の高度な科学技術を利用して、世界征服を目指す。……と書くといかにも典型的な悪人に思えるが(w)ヴィランは必ずしも悪人にあらず。彼にもちゃんと言い分はある。

彼は、いまだ白人優位のこの世界を転覆し、黒人優位の世界へと変えようとしているのだ。これに対し、ティ・チャラが目指す道は、世界とワカンダ王国との平和共存である。

……実はコレ、近代におけるアジア主義の歴史の反復にほかならない。

19世紀後半、アジア主義者たちが直面したのは、欧米列強の「覇道」(世界征服)に対して、自らは「王道」(各国の平和共存)を貫くべきか、それとも覇道には同じく覇道で立ち向かうべきか、という問題であった。世界を征服しようとするキルモンガーは「覇道」であり、ティ・チャラは「王道」である。本作は、単純な善悪二元論ではなく、これら「王道」と「覇道」のつばぜり合いをこそ描いているのだ。

しかし、ここで注目してほしいことがある。ワカンダ王国は、亡き前国王の時代までは鎖国体制だったのだ。それに対し、ティ・チャラもキルモンガーも、王道、覇道の違いこそあれど、もう鎖国はやめよう、国を開こう、という点では共通しているのである。その意味で、ふたりは実は似た者同士だったのだ。

本作ではまた、女性たちの活躍も見逃すことができない。国王を護衛する近衛兵たちはなんと皆女性兵士であるし、主人公の妹であるシュリ王女はエンジニアという設定だ。本作は、黒人映画であると同時に、女性映画でもあったのである。

 

ブラックパンサー (字幕版)

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・『11'09''01/セプテンバー11』

また今年も、9月11日がやってくる。

本作は、9.11をテーマに、世界の11人の映画監督たちが撮った短編映画――いずれも上映時間は「11分9秒01」に統一されている――をオムニバス形式にまとめた作品である。

短編映画の性格はそれぞれ多種多様だ。崩落寸前のWTCタワーから落下する人を撮った実物映像をあしらった衝撃的な作品もあるほか、一見すると9.11と関係なさそうに思えるが、実はそのなかにも9.11がさりげなく影を落としている、という作品もある。

欧米、中東など一神教圏出身の監督が多いなか、多神教圏からは我らが日本の今井昌平監督が参加している。

今井監督の短編映画は、先の戦争で負傷した日本兵を描いたもので、「え? コレ、9.11と関係あんの?」と不思議に思ってしまうが、最後の最後になって、実は関係があるのだということが分かるのである。

 

セプテンバー11 DTS版 [DVD]

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