Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『赫奕たる逆光』

本ブログではここのところ、三島由紀夫に関する書籍をやや集中的に取り上げている。

本日ご紹介する本は、作家の野坂昭如さん(1930‐2015)の『赫奕たる逆光』文藝春秋だ。

 

野坂さんは、生前の三島とも親交があった。そんな野坂さんによる三島評は、なかなかに興味深い。

野坂さんはまず、三島との生前の交流について語る。続いて三島の家族、とりわけ祖母の平岡なつ(※)に注目していく。

三島由紀夫というのは筆名であり、彼の本名は平岡公威である。

彼女は極めて強烈なパーソナリティーの持ち主であり、幼少期の三島は彼女から多大な影響を受けた。作家・三島由紀夫を読み解く鍵は、この祖母にあったのだ。

いったい、なつはどのような女性で、三島は彼女にどのように育てられたのか。……詳しくは、本著をお読みになってほしい(w

 

……と思ったけど、ひとつ、幼少期の三島の話で面白いと思ったものを挙げるとしよう。

三島に詳しい人ならすでにご存知かもしれないが、三島という人は病的なまでに、蟹を嫌がった。

居酒屋などで水槽に入れられた蟹を見ることすら嫌がったと伝えられるが、一方で、すでに缶詰になったものなら普通に食べられたという。

要するに、生きた蟹の姿が嫌だったのだ。どうしてか。

野坂さんは、子供の時の去勢不安が原因ではないか、と見る。

幼少期の三島は、祖母・なつからまるで女の子のように育てられたが――あ、言っちゃったw――それでもアソコだけは昔から大きかったという。幼少期の三島にとって唯一の男性性のシンボルだったアソコが、蟹のハサミによって切り取られてしまうのを想像したのではないか、と野坂さんは見ている。

 

こうした去勢不安の話からも分かるとおり、僕は、三島由紀夫という作家を読み解く鍵はエロにこそある、と思っている。

「えっ、三島と……エロ??」

と皆さん驚いてしまうかもしれない(;^_^A

だが、こう言って皆さんが驚いてしまうのは、「三島由紀夫=右翼=切腹=サムライ」というイメージが、今日定着してしまっているからではないか。

三島がまだ存命だった当時、彼は「エログロの作家」としても知られていた。意外にも、同時代の右翼たちは、三島の『英霊の聲』や『憂国』をエログロだとして批判していたのだ。『英霊の聲』は、その名の通り英霊の声にしてはあまりにおどろおどろしいし、『憂国』ではセックスや切腹のシーンが詳細に描かれるからである――この『憂国』はとりわけ重要だ。三島は切腹フェチだったと思われるからである

エロの問題を読み解くにあたって、野坂さんはまさに適任といえる。なぜなら彼は『エロ事師たち』という小説の著者であり、「エロの作家」として知られていたからだ。

野坂さんは、三島のことを本質的にオナニストであると指摘している。

これまで、三島は同性愛者だとたびたび指摘されてきた。確かにそうだったのかもしれないが、野坂さんは、それ以前にまず三島はオナニストだった、と指摘しているのだ。

≪自分しか愛せない人間に、同性愛も異性愛もあったものではない。≫(190頁)

野坂さんは、上述の『英霊の聲』について、以下のように論じている。

≪「英霊の声」の二・二六がらみの最後のシーン、「その方たちの志はよくわかつた」「心安く死ね」と天皇がのたまい、その後、「そしてわれらは、死のきはに、奇蹟を見るのだ。思ひ見よ。龍顔のおん頬に、われらの死を悼むおん涙が!」「神がわれらの至誠に、御感あらせられるおん涙が!」と書く。これは、マスターベーションにおける、妄想の構図とまことによく似ている。ひたすら独りよがりなのだ。≫(235‐236頁)

ここは、本著のなかで一番に面白く、ハツとさせられた箇所だ。なるほど、そうか! と目からウロコが落ちる思いがした。

僕はこれまで、三島の天皇観はあまりにファナティック(狂信的)で、正直ついていけないな、と思っていた。戦前生まれとはいえ、三島はどうしてこんなにも天皇を妄信するんだろう、と不思議に思ってきた。

だが、こうした天皇崇拝が実はオナネタだったと思えば、話はにわかに分かりやすくなる。

オナニーしている最中、人間はとんでもないことを平気で妄想している。僕だって、オナニー中は、ここではちょっと書けないような(w)過激な妄想を思い浮かべながら、手でシコシコしているのだw(^▽^;)

三島にとって、天皇崇拝とはそのようなオナニー中の妄想だったというのであれば、その内容が過激であるのも合点がいく。

なるほどなぁ、さすがはエロの作家だ、と僕は感心してしまった(w

 

野坂さんの文体は、なんとも独特だ。普通ならいったん読点で区切りそうなところでも、たらたらと文章を続ける。かと思えば、体言止めで唐突に文を終えてしまう。

こうした彼の文体にいささか難儀しつつも(;^ω^)、僕は本著をとても興味深く読み終えたのだった。

うん、やっぱり、三島って、面白い。

 

赫奕(かくやく)たる逆光 (文春文庫)