Furusawa Keisuke's blog

政治から映画、アニメ、将棋まで幅広く語ります。

書評『第四間氷期』

僕は子供のころ、物語文というのがどうにも好きではなかった。

今でもそうだ。小説にはあまり興味がなく、日本の作家でわりと本格的に読んだことがあるのは三島由紀夫村上春樹くらいのものである。

それよりかは自然科学の本のほうが好きで、よく読んでいた――そのころまでの僕は理系少年だったのだ

母はそんな僕を見て、もっと文学を読ませたいと思ったらしい。で、彼女が着目したのが、SFである。なるほど、SFなら自然科学好きの少年でもなじめるというわけだ。以降、僕は母に連れられて沼津市の市立図書館に行き、子供向けのSF文庫を片っ端から読むようになった。

面白かった。それらのタイトルのほとんどは忘れてしまったが、面白かったのは覚えている。

だが、受験を機に図書館にも行かなくなり、そのままSFを読むこともなくなってしまった。今思えば、多感な10代のうちにもっとSF作品を読んでおけばよかった、と後悔している。

 

本日ご紹介する本は、SF小説『第四間氷期(新潮社)である。

著者は、小説家の安部公房(1924‐1993)。本著は、日本で最初の本格的長編SF小説とされている。

 

本著は、ソ連が未来予測コンピューターを開発するところから始まる。

ソ連」というのがまたなんとも時代を感じさせるが(w)、なにぶん昭和30年代に書かれた小説なのでご容赦いただきたい(;^_^A 

「おっ、未来予測コンピューター! 近年のビッグデータやAI人工知能にも通じる話だねぇ!」と思いながらページをめくっていくと、しかしながら次第に話題の焦点はこの未来予測コンピューターから逸れていき、水の中で生きられる新型の人類「水棲人」へと移っていくのである。

 

この「水棲人」、やがて海中にて都市を建造し、ついには国家まで樹立してしまう。地球温暖化の進行にともない海水面はどんどん上昇していき、陸地は減少、いつしか我々陸上の人類と彼ら水棲人の立場は逆転する。

地球は、水棲人の支配する惑星となったのだ。

 

興味深いのは、著者である安部は、この結末をハッピーエンドともバッドエンドともみなしていないという点だ。

我々現生人類は水棲人に地球を譲り渡してしまったわけだから、我々の目にはこれはバッドエンドに見える。だが、そもそも未来がグッドかバッドかを判定できるわけがない、と考えるのが安部公房なのである。

 

我々は、未来になっても人間の感性は変わらないものとばかり思っている。宇宙船がバンバン飛びかう『スター・ウォーズ』の世界でも、登場人物たちの基本的な感受性は現代に住む我々とさほど変わらない。

だが、本当にそうだろうか。過去を振り返ると、我々人類は時代が変わるごとにその感性も大きく変化させてきたことに気づかされる。石器時代と現代とでは、同じ人類といえども、その感受性はまったくといっていいほど異なるであろう。

それならば、遠い未来の宇宙時代ともなれば、今日の我々とはもはやコミュニケーションすらできぬほど、人間(の感受性)は様変わりしているのではあるまいか。

いや、なにも宇宙でなくてもよいのだ。それこそ本作で登場する水棲人のように、まったく新しいタイプの人類は、我々とは感性が異なることだろう。そんな彼らが台頭してきたとき、旧人類たる我々は、我々の価値観でもって一方的に彼らを善だ悪だと裁いてよいのか。我々に本当にそんな資格があるのか。

 

いや、ない。

と、安部はあとがきにて書いている。やや難解で分かりづらいあとがきなのだが、僕なりの言葉でまとめると、こうなる。

彼ら水棲人は善でも悪でもなく、したがって彼らに地球の支配者の座を奪われることも同様にグッドともバッドともいえない。繰り返しになるが、そうした価値判断はあくまで我々の価値観にのっとって彼らを一方的に裁くことにほかならない。それは、我々の傲慢ではないのか。

……どうだろう。安部公房は、ずいぶんと深いことを言っている、と皆さん思わないだろうか。

 

もうひとつ、本著のなかで面白いと思った点を挙げるとしよう。

ラスト、水棲人のひとりの少年が、陸に上がろうとする。その試みに、とくに合理的な理由はない。彼はただ、外の世界に触れたかっただけなのだ。苦心のすえ、なんとか陸に上がった少年は、あぁこれが陸上か、これが風か、と感激しつつ、乾燥して息絶える。

僕は、以前取り上げたSF映画『THX-1138』を思い出した。この映画でも、主人公は監視社会の<外>に出るのは危険だと分かっていながら、それでもなお<外>を目指した。

人間は、否、この点に関しては水棲人であっても同じなのだ。我々は、安楽な<内>での暮らしを捨ててでも、<外>を目指す――そういう非合理な選択をときにしうる生き物なのである。

 

上述のとおり、僕はいつのころからかSF作品を読まなくなってしまったことを、今ではとても後悔している。

これからは、もっとSFを読み、本ブログにて皆さんにご紹介しよう――そう思っている。

 

第四間氷期 (新潮文庫)

第四間氷期 (新潮文庫)